「ゆるす」ことが幸せへの近道
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僕はあの悲惨な戦争を経験しているから、戦争や核兵器には絶対反対だけれど、ただ「戦争反対」と声高に叫ぶだけでは、いつまでたっても、平和は来ないと思うんだ。ニューヨークの9・11テロの後に、憎しみの輪が世界に広がったように。
だから、命を大事にし、なぐられても相手を許すという姿勢こそが必要だと思うんです。そして、それを子供に教えなければいけない。
2005年10月に、指揮者の小沢征爾さんと広島市で開いた「世界へおくる平和のメッセージ」という音楽会にも、そんな思いを込めたんです。7000人の観客を集めて、小沢さんが、フォーレの「レクイエム」を指揮し、僕は自作の詩を朗読してね。
「殺すなかれ、核兵器を葬れ、とのかけ声からは本当の平和は生まれなかった。そこで、私はこう提唱したい。人を心から愛するために、全てをゆるそう」と。
最後には、世界各国の子供たちが壇上に上がり、「草木を、動物を、そして人の命を愛しましょう」とメッセージを発信したんです。
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2007年7月11日 読売新聞 「時代の証言者 元気 日野原重明 21」より抜粋
日野原さんの書いたこの文章は、いまだに頭から離れない。
近年だけでも、9・11テロ、イラク戦争、イラク国内の自爆テロ・・と、暴力の連鎖はとどまるところを知らない。それこそ、「やればやり返す」の永遠の連鎖である。
欧米が主導してきた、歴史的な世界の流れは、まさに欧米の圧倒的な勝利の系譜であろう。イスラム世界は、十字軍以来、キリスト教世界に蹂躙され続けており、1000年来の血の怨念を保持している。あまりに非対称なので、イスラムの原理主義が台頭してくることになる。
テロ行為は断じて、いけない。しかし、歴史的に常に辛い思いをしているイスラムを思いやるハートは欧米側に必要であろう。
そこで、「ゆるす」というキーワードが出てくる。
「殺すなかれ、核兵器を葬れ、とのかけ声からは本当の平和は生まれなかった。人を心から愛するために、全てをゆるそう」と日野原さんは提唱するのである。
ここは、当然強者が度量をみせるべきであろうと思う。
ところが、困ったことに、ユダヤ教とそこから生まれたキリスト教もイスラム教も自らの神のみを信仰する一神教なのである。最初からして、「やればやり返す」のDNAを持っているようなものである。
(たかが人間同士で争ってなんになるのか。同じ地球の住人として恥ずかしい、と他の動物や植物が囁いている。)
このままでは、なにも変わらない。
では、どうすればよいか。
人が変わるのを待っていては、一生かかってもだめなものはだめである。
自分が変わればよいのである。人がたとえなんと言おうと、「ゆるす」のである。
無償の愛・慈悲でもって、「ゆるす」のである。大乗仏教では六波羅蜜の第一「布施」。キリスト教ではアガペー。いや、宗教なんぞ持ち出さずとも、「純粋な贈与」である。
(皆さん、これを習慣にしてごらんなさい。世の中180度変わります)
神々がさきわう極東の島国では、一神教とちがい、懐が深い。人々がなんだかぼんやりしているように見えるが、彫の深い理屈っぽい人々より可能性があるように思えてくる。
ほんとは、小泉さんあたりが、「ゆるす」ことをブッシュさんに進言でもしていれば、それこそ歴史に残ったのにと、思う。
獅子鷹
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