出雲大社に詣でる
先日、思い立って出雲大社に詣でた。出雲大社では、今年から平成25年にかけて、60年に一度の国宝本殿の屋根の葺き替えなどの改修を行っており、先月4月20日には祭神の大国主命(大黒様)を仮殿へ移す「仮殿遷座祭」が行われ、主が留守になった本殿を拝観できるため、ちょっと興味を引かれたのである。
出雲大社は一生に一度は行ってみたいと思っていたし、60年に一度の本殿拝観のチャンス(40代の私にとって今後事実上もう無い)という俗っぽい興味もあった。また、割子の出雲そばや地酒などに舌鼓をうちたいという本来!?の目的もあった。
大丸地下で「すし鉄」の鉄火巻きを買い、夜7時すぎに東京八重洲でスサノウ号という夜行バスに乗り、揺られること12時間。翌朝7時すぎに出雲市駅前に到着。朝飯も食べず、睡眠不足を取り戻す仮眠もせず、寝違えて痛めた頸をさすりながら、すぐに、大社行きの畑電バスに乗り換えた。目的は単純明快。本殿特別拝観の列に早く並ぶこと!!
バスは通学時間帯と重なり、多くの参拝客のほかに女子高生が多く乗り込んできて、私の隣にも座った。高齢の方も多い参拝客の高揚したざわめきある雰囲気とは対照的に、彼女たちは、試験勉強であろうか、なにやら静かに真剣にノートに見入っている。何気に目をやると、「デモクリトスの主張は」「善のイデアとは何か」「ニコマコス倫理学とは何か」などの文字が躍っている。思わず「がんばって」と心の中で応援していた。と同時に、西洋哲学の起源のギリシャ哲学を学ぶ彼女たちの生まれ育った地に「出雲神話」があることを羨ましくも思った。先に国土を形成して「国つ神」となり、後に「天つ神」の天照大神に国を譲った大国主命は、目に見える存在の盟主となった天照(天皇の先祖)に対して、目に見えない霊界の盟主となり、生死一如で日本国を支えているというのだ。「千と千尋の神隠し」はまさにこのことがテーマ。目に見える世界では「千尋」という個別の名前をもった少女は、新興住宅街のはずれのテーマパークのトンネル(この世と霊界との境界)をくぐり、「千」となる。すなわち、名前を奪われる(千=たくさん、八百万の世界)ことになる。
彼女たちは大社直前のバス停で整然と降りていった。
程なく、巨大なコンクリート製鳥居が現れて、まっすぐに北に伸びる門前町にはいり、一畑電車の駅を横に見てさらに進むと、樹木に覆われた神域が忽然と現れ、俗界と分かつように鳥居が立っていた。ここでバスを降り、鳥居の前に立った。バスの中では眠気と空腹と頸痛に苛まれていたのだが、なぜかすべて止んだ。
覚醒した目で鳥居の奥を凝視する。はるかかなたの正面に、本殿が陽炎のように見えた。
次の瞬間、足取りも軽く、本殿を目指していた。
獅子鷹(つづく)
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