ドヴォルザーク 交響曲第7番ニ短調Op.70
ドヴォルザークは、ブラームスに見出され、世界的な作曲家として認められました。その恩もあり彼はブラームスを師と仰ぎ、敬愛していました。あるとき、ウイーンで師の新作の交響曲をピアノで弾いて聴かされました。そしてベルリンで師自身の指揮での演奏(1884年1月)に立会い、まことに衝撃を受けたのでした。交響曲第6番をイギリスで認められ、新たな交響曲をロンドンから委嘱されていたドヴォルザークは、このような状況下でこの交響曲第7番(以下ドヴォ7)を1884年末から翌年にかけて書き上げました。
ブラームスが衝撃を与えた曲が交響曲第3番。周知のようにドヴォ7はブラ3と楽章構成など似通っており、また随所にブラームスの旋律やモチーフが感じられ、師の大きな影響が認められます。形式を重んじるドイツ「新古典派」の重鎮の後継という意味では、この曲はさしずめ「ブラ5」にあたるといっていいかもしれません。おや?5番といえば、9番とならんで作曲家にとって鬼門とも言えるナンバー。ベートーヴェン5番、ショスタコーヴィチ5番、マーラー5番、チャイコフスキー5番・・。なにやら自分ではどうすることもできない種々の「運命」とやらで苦悩するが、これを克服して最後は「めでたし」ともっていく一筋縄ではいかないやつ(あ、ブラ3も一説ではブラームスの「運命」といわれていますね)。そういう意味では、この曲の第一楽章冒頭のビオラ、チェロによるニ短調の不安げな第一主題は「運命」の主題ともいえますし、紆余曲折を経て、第4楽章の最終10小節でようやくニ長調になってffで堂々と終わることで解決をみる終わり方は、長さはちがいますが、ショスタコ5番の終わり方(これもニ長調)にも似て、ある種の解決感、達成感がありほっと一安心できるものです。
こういう鬼門を通過して大作曲家は一皮むけるものですが、ドヴォルザークもこの曲で見事に通過。ロンドン初演後、ウイーン、ベルリン、アメリカ各都市で次々と成功を収めました。あとは野となれ山となれ。8番、9番「新世界より」と、さらに独自の境地を拓いていくのでした。
もとより、ドヴォ7は、単に「ブラームスの影響」や先人やブラームス以外の同時代の作曲家(リスト、ワーグナー、チャイコフスキーなどにも触発されている)の影響といった文脈だけでは語れません。ご存知のように、ドヴォルザークの生まれ育ったボヘミアの、自然の豊かさあふれる素朴な旋律や民謡に満ちています。たとえば第2楽章の五音音階(ドレミソラ)を用いた、大自然の真っ只中にいるようなメロディは「新世界より」の有名な第2楽章の「家路」のメロディにも似て、すべての事物の輪郭が消失したような郷愁的な思いをかきたてます。また、第3楽章スケルツオはボヘミア民族舞踊のフリアントの特徴を取り入れています。それだけではありません。極めつけはいうまでもなく彼自身の天才的な曲想の豊かさです。これについてはブラームスも舌を巻いています。師をして「シューベルト級の天才」「あの男の捨てたメロディの破片を、他の誰もが奪い取るであろう」と言わしめているのです。(もっとも、ドヴォルザーク自身の、よく言えば物事に拘らない、悪く言えば移り気な性格からか、シューベルト同様音楽が冗漫に流れるきらいも指摘されますが・・)
結論的には、ドイツ古典派のかっちりした伝統的な交響曲の構造の上に、ボヘミアの自然や民族の誇りをベースとしたドヴォルザーク独自の溢れ出るような曲想を散りばめた魅力的な名曲に仕上がっており、一度聴いたらまずファンとなること請け合いです。難をいえば、8,9番に比べ、人口に膾炙していないところと、オーケストレーションにやや拙さがあり、演奏が非常に難しい点でしょうか。
・Ⅰ. Allegro maestoso
・Ⅱ. Poco Adagio
・Ⅲ. Scherzo: Vivace
・Ⅳ. Finale: Allegro
獅子鷹
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