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ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調「新世界より」Op.95

ドヴォルザークは9つの交響曲を残しましたが、なんといっても後期の3曲が有名で、第7番、第8番、そして本日採り上げる第9番「新世界より」の順に質、人気度、普遍性共に高くなっていくといえます。師匠 ブラームスの第3交響曲にならって、ドイツ新古典派の交響曲の後継をゆるぎないものにした第7番は“ドイツ的”。ボヘミアの明るい日差しの田園の真っ只中にいるかのような第8番は“ボヘミア的”とすれば、第9番「新世界より」は○○的なのでしょうか?

「新世界より」の副題をつけたのは、ほかならぬドヴォルザーク自身です。ご存知のように、黒人霊歌や原住民アメリカン・インディアンのメロディなどに触発されているとすれば“アメリカ的”。新世界であるアメリカから故郷ボヘミアへのメッセージとすれば、“アメリカ-ボヘミア的”とでもいえましょうか。しかし、わたしはあえて“普遍的”といいたいと思います。

アメリカ滞在中の18931月に着手した交響曲第9番「新世界より」、は5月には完成しますが、4月某日付けの友人宛の手紙の中でドヴォルザークはこう書いています「この作品は以前のものとは大きく異なり、わずかにアメリカ風である」。一見矛盾した言い回しですよね。「~大きく異なり、わずかにアメリカ風・・・」さりげなくもこの飛躍した表現に、ドヴォルザークの真の意図を感じます。つまり、今まで積み重ねてきたドイツ的、ボヘミア的なものが、アメリカで出会った黒人霊歌や原住民アメリカン・インディアンのメロディの影響を(わずかに)一押し受けて、普遍的なものに(大きく)ジャンプしたといいたいのではないでしょうか。

西洋音楽史の中では、ドヴォルザークは、チャイコフスキーやグリークなどとともに後期ロマン派かつ国民楽派の代表といわれています。西洋音楽の本流であるドイツ、フランス、イタリアあたりから見れば、自分たちが古典派からロマン派の流れを作ったのであり、その後生じたものは“後期”ロマン派であり、自分たち以外の東欧・北欧・ロシアあたりの国民たちの(いわば遅れてやってきた)異国趣味(まさにこの意味で珍重されましたが・・)の音楽ということでしょう。しかし、ドヴォルザーク本人からすればちがいます。自分の生まれ育ったボヘミアの土の香りのする素朴な民謡や舞踊素材を大切に取り入れています。そして、この第9番「新世界より」では、アメリカで出会った黒人霊歌や原住民アメリカン・インディアンのメロディを取り入れています。つまり、ドヴォルザーク本人にとっては、異国趣味でもなんでもなく、むしろ、西欧に虐げられてきた、ボヘミアや、新大陸の黒人やインディアン(私たち日本人も遠い親戚です。2楽章のメロディなどは日本の歌そのものです)のマイノリティ性を西欧共通の交響曲という形式の上に浮上させ、見事に普遍化したという点が重要ではないでしょうか。

普遍性すなはち「音楽自体に国境や差別はない」ということをドヴォルザークがこの曲に込めたとすれば、それは大成功といえます。なにせ、世界中どこでも最も人気ある曲のひとつなのですから・・。

なお、初演は18931216日、ニューヨークのカーネギー・ホールにて、アントン・ザイドル指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック協会管弦楽団により行われ、大成功だったと伝えられています。

 第1楽章 Adagio - Allegro molto ホ短調 8分の4拍子 序奏付きソナタ形式

序奏は弦の旋律に始まり、ホルンなどによる信号、第一主題を先取りするモチーフなど、全曲を貫く動機がでる。アレグロ・モルトの主部に入ると第34ホルンが民族的な第一主題を奏で、木管が受ける。続いて、フルートとオーボエによるもの悲しいやさしい黒人霊歌調の第2主題がト短調で現れ、展開部に続く。

 第2楽章 Largo 変ニ長調 4分の4拍子 複合三部形式

金管の最弱奏の和音で弱音器付弦が受け、イングリッシュホルンが有名な「家路」の名前で知られる郷愁感極まりない旋律を奏でる。この五音音階の旋律はアメリカ的でもあり、ボヘミア的でもあり、日本的でさえある。この曲の普遍性を象徴する優れてドヴォルザーク独自のメロディといえる。なお、チューバがこの楽章の合計10小節のみ、バストロンボーンと重ねて用いられる。

 第3楽章 Scherzo (Molto vivace) ホ短調 4分の3拍子 複合三部形式

溌剌としたテンポのスケルツォ。インディアン/ボヘミアの農民の舞踏を連想させる。ABACABA-Codaの形式で2つのトリオを持つ。1つ目のトリオはホ長調の民謡風。2つ目のトリオはハ長調の西欧風。この楽章のみトライアングルが効果的に用いられる。

 第4楽章 Allegro con fuoco。 ホ短調 4分の4拍子 序奏付きソナタ形式

全曲を統括するフィナーレ。9小節の半音階の序奏が一気に盛り上がり、ホルン、トランペットによる第1主題が朗々と歌われる。第2主題前に、ドヴォルザークが愛した蒸気機関車が驀進する様のような激烈な経過部が有るが、この経過部の後半に、全曲を通じてただ1度だけのシンバルが打たれる。第2主題は、クラリネットとフルート、およびチェロを主体にした柔和な旋律。その後展開部、再現部と進む中で各楽章のテーマが次々に回想的に繰り出され展開された後、コーダの中で力強い頂点を築いて、印象的に終結する。

獅子鷹

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