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2015年11月

シベリウス 交響曲第1番ホ短調Op.39

シベリウスは1865128日にヘルシンキの北方約100kmのハメーンリンナに生まれ、9歳からピアノ、15歳からヴァイオリンを開始。1885年、ヘルシンキ音楽院で作曲などを学び始める。1889年、ベルリンに留学。さらに、ウィーン音楽院においてカール・ゴルトマルクに師事。そして故郷に帰り、母校で教鞭とるかたわら、作曲を本格的に開始します。

 

シベリウスは交響曲第1番を作曲する以前に、民族叙事詩「カレワラ」に基づき、独唱と合唱を伴うカンタータ風の「クレルヴォ交響曲」(1892年)を作曲していました。「クレルヴォ交響曲」から本作が作曲されるまでの間に器楽のみの「音楽的対話」という標題交響曲が計画されましたが放棄されています(一部のモティーフが交響曲第1番に盛り込まれ手います)。すでに交響詩の分野では愛国心の結晶ともいうべき「フィンランディア」を初め、「トゥオネラの白鳥」を含む「4つの伝説曲」など代表作となる傑作を残しています。さらに、本作に着手する(18984月)直前の18983月に彼はベルリンでベルリオーズの幻想交響曲を聴き、大きな感銘を受けています(劇的効果の影響があったかも)。そしてシベリウスは滞在先のベルリンで早速交響曲第1番の作曲に着手したのでした。完成は1899年初頭。なお、改訂を受け190071日に現行版がヘルシンキ・フィルハーモニーにて初演されています。

 

「シベリウスの想像力にとって、交響的形式はまったく妨げにならない。逆に彼はそこで驚くべき自由を発揮している。シベリウスの交響曲には、もはやフィンランド的要素を見出すことは困難である。なぜなら作曲者は彼独自の語法を用いつつも、全人類に通ずる普遍言語を語っているからだ」1899年の交響曲第1番の初演を聴いたリヒャルト・ファルテンはこう述べています。

お分かりでしょうか?“彼独自の語法”つまりは、フィンランドに根差したラプソディックな民族的要素を用いつつも、“語法の普遍性”つまりは、フィンランドを超越した普遍的なものを語っているというのです。いわば交響詩(標題音楽的)の要素を孕みながら、それを越えた絶対音楽的なものになっているというのです。

 シベリウスは「私の交響曲は、まったく文学の要素を持たない音楽表現である。・・音楽は言葉が語りえないところからはじまると信じている。私の交響曲の核心は純粋に音楽的なものである」といっており、あくまでも理想は純音楽/絶対音楽を目指したのでした。

 しかし、西洋音楽史における自身の位置や民族の置かれた社会状況は厳しいものでした。

 音楽史では、ベートーヴェン以来交響曲はすでに完成の域に達し、シベリウスの頃は後期ロマン派かつ国民楽派くらいしか生きる道はありません。しかも、近隣にはチャイコフスキーやボロディン等がいていやおうなしにロマン主義国民主義的な影響を受けざるを得ません。また、ロマン派全盛の時代にあっては、交響詩的なアプローチが迫られるのです。

 一方、社会状況的には、ロシアからの政治的圧力により、フィンランド国民としては、民族的アイデンティティを追求するしかなかったのでした。こうした現実から目をそらすことなく、しかし、理想とする絶対音楽をその上に打ち立てたのが、“交響詩的純器楽交響曲”交響曲第1番だったのです(パッションの激しさ等からシベリウスの“悲愴”といわれることがありますが、シベリウスは「チャイコフスキーとは異なり私の音楽は硬質である」と述べて明確に否定しています)。シベリウスの思いを知ったとき、この曲を涙なしには聴けません........。この曲および交響曲第2番の成功後、自身の理想を実現すべく、すべからく抽象的絶対音楽に邁進することになります。

 

曲はかなり交響詩風ではあるが、標題のない純器楽交響曲。第4楽章には「幻想風に」との指示まであるが、その一方で、第1楽章の序奏と第4楽章の序奏に同じ主題を用い、またどちらの楽章も最後はピツィカートで締めくくるなど独特な曲想統一の工夫がなされている。

・第1楽章 Andante, ma non troppo - Allegro energico

ホ短調、序奏付きソナタ形式。

・第2楽章 Andante (ma non troppo lento) - Un poco meno andante - Molto

  tranquillo

変ホ長調、三部形式。

・第3楽章 Scherzo. Allegro - Trio. Lento (ma non troppo)

ハ長調、三部形式。

・第4楽章 Finale(Quasi una Fantasia). Andante - Allegro molto - Andante assai - Allegro molto come prima - Andante (ma non troppo) 

   ホ短調、序奏付きソナタ形式。

                                                                                                             獅子鷹

  

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