ベートーヴェン 交響曲第8番ヘ長調Op.93
ベートーヴェンは、ナポレオンのロシア遠征のあった1812年、二つの交響曲を完成させました。かたや、5月に完成したイ長調第7番。こなた、10月に完成したヘ長調第8番。1814年2月27日に両者同時に初演。7番のほうに人気が集中したのに対しベートーヴェンは「聴衆がこの曲(8番)を理解できないのはこの曲があまりに優れているからだ」と語ったというエピソードがあります。ベッカーが「第7は高い山へ登る努力をあらわし、第8は頂上での幸福な歩みをあらわしている」と評しましたが、第7に関しては、情熱と勢いで野生的に登りつめたという方が当たっているように思いますが、第8に関しては正鵠を得ているように思います。交響曲第8番は、ベートーヴェンの交響曲の中では比較的小規模で、従来の古典的な形式に則っていますがが、独創的な工夫と表現にあふれているといえます。
第1楽章 Allegro vivace e con brio 4分の3拍子 ヘ長調 ソナタ形式
序奏がなく、いきなり華やかなトゥッティで開始。古典的な印象を受けるが、第2主題が6度の平行長調であるニ長調を通り、かつワルツ調に提示されるなど、工夫が見られる。スフォルツァンドを多用し、ヘミオラでリズムを刻む展開部はベートーヴェンには珍しく手短にまとまっているが、その分非常に密度が濃くなっている。第5交響曲の第1楽章第1主題と同じ「タタタタッ」の形をオクターブに跳躍させてリズムをとっているのが特徴的。再現部では、トゥッティがfffで鳴り響く中で低弦が第1主題を再現するが、音のバランスをとるのが難しく、指揮者の腕の見せ所となっている。
第2楽章 Allegretto scherzando 4分の2拍子 変ロ長調 展開部を欠くソナタ形式
まるで可愛い時計のように木管・ホルンがリズムを刻む中、弦により歌うような主題出る。愛らしい楽章である。この交響曲は同時初演となった交響曲第7番同様、緩徐楽章を欠いており、第2楽章を実質的なスケルツォとする解釈もある。展開部を欠いたソナタ形式で、メトロノームの考案者メルツェル(ドイツ語版、英語版)に贈った『親愛なるメルツェル』というカノンの旋律を使って作曲していると言われていたが,近年そうではないことが有力となっている。
第3楽章 Tempo di Menuetto 4分の3拍子 ヘ長調複合三部形式
ベートーヴェンが交響曲の楽章として用いた唯一のメヌエット(第1番もメヌエットとの表示であるが、内容は明らかにスケルツォである)。ただし導入部にアクセントが付けられていたり、宮廷舞曲というよりもレントラー風であったりするなど、ベートーヴェンの独創性も十分である。トリオにおけるチェロパートの伴奏は3連符だけでまとまっておりスケルツォ的である。トリオのホルンとクラリネットの牧歌風の長閑な旋律は、作曲当時ベートーヴェンが滞在していたカルルスバートの郵便馬車の信号をもとにしたと言われている。
第4楽章 Allegro vivace 2分の2拍子 ヘ長調自由なロンド形式
ロンド形式とソナタ形式の複合形式という見方もできる。6連符によるタタタタタタのリズムを特徴とし、強弱が激しく入れ替わる。終始6連符のリズムが保たれたままに展開される。楽器の演奏法ではティンパニとファゴットの1オクターブの跳躍が特徴的である。コーダは意表をつく転調によるパッセージが盛り込まれている。同じ和音を保持したまま楽器を次々に移り変わらせていく手法が使われている。
獅子鷹
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